都鄙往還雑考

宝塚の山の中と街をいったりきたり 2022年12月よりブログタイトルを変更しています。それ以前の記事は順次整理していきます。

恋するアフガン人

彼は事務所のドライバーの一人だった。
背丈は、かなり低い。
歳もまだ20代だったと思うし、顔もけっこう童顔だった。
若いし、入ってまだ日も浅いせいか、なにかと仕事を押し付けられていた感もあった。
だが、気は強い。けっこう、短気だ。
そして、僕とはソリが合わず、顔を合わせれば、いつも微妙な空気が創られた。
そんな彼が、常識はずれな日数の休みを申請した。
結婚相手が決まった関係で、お祝いがあるのだという。
そういうわけで、彼はもうウキウキした顔で申請し、そんな顔で実家に帰っていた。
 
アフガニスタンの結婚は、親とか村のエライ人が主導で決定されるらしい。
自由恋愛の道は、かなり厳しいようだ。
アフガンの田舎生まれの彼だから、結婚前に女の子とイチャイチャしようものなら、大問題に発展する。
ちなみに、結婚に関する費用は新郎側の家が負担する。
息子が多い家はかなり大変なはずである。
 
幸せな休暇を終えて、戻って来た彼の顔は、幸せな色がまだ抜けていなかった。
「彼女がときどき電話してくるんだよ~」
勤務時間中に、携帯電話を片手にひとしきり幸せな話をした彼は、延々と話して去っていた。
「で、アイツはなにをしにここに来たんだ?」
彼女のいない僕は、他人の幸せトークで幸せになれるほど、寛容じゃないんだよ。
この言葉に、居合わせたアフガン人スタッフは爆笑だった。
ひがんだこの心中を察したんだろうよ。居合わせた面々は全員既婚者だったし~。
あの時の彼の顔は、まるで初めて彼女ができた男子中学生のようだった。
今頃、子供の一人くらいはいるかもしれない。