都鄙往還雑考

宝塚の山の中と街をいったりきたり 2022年12月よりブログタイトルを変更しています。それ以前の記事は順次整理していきます。

気づいてしまった日

ドライバーが突然、車を停めた。
国境線を離れた山のふもとの下り道、前には何もない荒野が広がっている。
さては故障したか?
「礼拝の時間なんだ」
ああ、そういことか。
他に数台の車が停まり、みんな礼拝を始めている。
道路のわきの斜面には、水が流れていた。
身体を清めた彼らは、礼拝を始める。
ムスリムでない僕はのんびりと待つ。
静まり返った大気の中で、彼らの祈りはメッカに向かう。
いや少し待て。
彼の向かう方向は、メッカとは逆を向いている。
みんな同じ方向だけど、みんなそっちにメッカはないぞ。
ふと思い出す。
事務所の一室で、宿舎の片隅で、調理場の片隅で、それぞれの場所で、
皆が祈りを向けた方角は一緒だっただろうか。
「そっちメッカじゃないけれど」
真剣な彼らの眼差しに、その言葉はついに出なかった。