都鄙往還雑考

宝塚の山の中と街をいったりきたり 2022年12月よりブログタイトルを変更しています。それ以前の記事は順次整理していきます。

視線が痛かった日と気付いてもらえなかった日

入国後、初めてビザの更新とワーキングパーミッションを取得した時のこと。
役所仕事というモノはどこの国でも同じのようで、いろんなセクションをたらい回しにされます。
とくに、健康であることを証明する書類に病院のサインが必要らしく、
担当者を探すために市内にある大きな病院の中でグルグル巡ります。
「○○はここにいる?」
「いないよ。あっちの部屋だ」
あっちの部屋に行くと、
「○○はここにいる?」
「いないよ。別の棟じゃない?」
「・・・」
毎回この調子で、丸一日潰れます。
サインを貰うだけでこの有様ですから、そのあとの血液検査で注射されたときなど、
注射針を交換しているのか、不安になったのは当然です。
そうやってたらい回しにされている間、周囲から針で突かれるようなトゲトゲした視線を感じます。
このややこしいビザ取得手続きを、辛抱強く一手に引き受けている事務所のアフガン人スタッフの口から
「ジャパニ」(日本人)
という単語が聴き取れます。それを聞いた周りが変に納得した顔になります。
実はこの数日前、国境トルハム近郊でテロに錯乱した米兵が銃を乱射し、多数の死傷者を出すという
事件があったのです。ひょっとしたら、その負傷者も病院に搬送されていたのかもしれませんし、
そうじゃなくても反米感情が燃え盛っている時だったのです。
ですので、僕を見た周りにいるアフガン人の皆さんからすれば、
「あの異人は何だ?どこの国の野郎だ。アメリカ人だったらただじゃ済まさねえ」
というような会話が飛び交っていたんだろうなと思います。日本人で良かったことです。

それから約一年後、仕事でバザールの両替業者が立ち並ぶ一角に行った時のこと。
両替レートを聞いて回りに、表通りから奥に入った薄暗い路地の先にいたのは、なんとアメリカ兵!
とある両替業者の店の前で、三人が砂漠色の迷彩服に自動小銃を携えての完全武装の格好で警戒中です。
「何をしに来たの?キミたち場違いにも程があるよ」
そんなことを言ってやりたくなるほど、おかしい光景です。
誰も彼らに近づきません。いや唯一の例外は、子供です。男の子二人。
ふざけてイタズラを仕掛けようとしていました。
度胸試しみたいな感じで、珍しく微笑ましい光景なので撮影したいところでしたが、
周りにいる大人たちのアメリカ兵に向ける視線が、刃のごとく鋭かったので中止にしました。
「僕は日本人なんですよ」
なんてアメリカ兵に話しかけ、仲良く記念撮影でもしたら、あとで血祭りにされそうな雰囲気です。
ですから、アフガン人のみなさんと仲良く一緒にアメリカ兵に鋭い視線を向けることにしました。
ところが、一年前のように誰も僕や一緒にいたアフガン人スタッフに向かって
「オマエさんも異人さんのようだが、国はどこだい?」
とは尋ねてきません。なぜだ?なぜ誰も聞いてこない?
僕を見たはずのアメリカ兵も、現地服のシャルワルカミーズを着た怪しいヒゲの日本人がいることに、
まったく気付いた様子はありません。
みんな僕をアフガン人だと思ったのでしょうか・・・
「日本人って遠い存在だな」
ジャララバードの片隅で、日本人から乖離していたことに気付いたある日でした。