都鄙往還雑考

宝塚の山の中と街をいったりきたり 2022年12月よりブログタイトルを変更しています。それ以前の記事は順次整理していきます。

軍用ヘリが征く下で

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超低空で飛ぶ軍用ヘリの騒音というのは、ひどいモノだった。
1機、2機が単体で飛んでる時は、まだいい。
前衛、本隊、後衛などと、攻撃ヘリと輸送ヘリが団体で頭上を通過すると喧しくてたまらない。
「誰か、ミサイル持って来てくれ~」
なんて冗談を言ってみたのは、そんな喧しい瞬間だった。
「オレは前に撃ってたぜ。ロシア人に向かってな」
冗談にそんな回答を寄こしたのは、宿舎で働くアフガン人スタッフだった。
彼は巨漢だ。日本人には不可能な腹の持ち主だ。
腕だって太い。重いバックパックやスーツケースを軽々と持ち上げる。
色黒で丸い顔は、見た目は怖いかも知れんが、宿舎の前の通りで遊ぶ子供の相手もする。
いつもニコニコした顔だし、表情豊かなリアクションのできる人でもある。
「どうだ見ろよ。それがその時の傷なんだ」
服をめくって、足を見せる。
もうなんだか、どうだ、すごいだろと言わんばかりだ。
でも、スマン。毛が濃くてよく分らんぞ。
「じゃあ、昔はムジャヒディーンだったんだ」
「そうだ。昔は戦ってたんだ」
「じゃあ、なんで今はアメリカと戦わないの?」
「そりゃ、難しいぞ」
「なんで?」
「今は、嫁もいる。子供もいる」
一家の大黒柱として、当然の回答と思えた。
「もし、彼がまだ結婚してなかったら?」
「もし、彼の家族が消えてしまったら?」
この仮定を前提にした質問を、僕は怖くてできなかった。
なぜなら彼はこの会話で、「戦い」そのものを否定した訳ではなかったから。

(写真はジャララバードの空を飛ぶ偵察ヘリ、08年2月撮影)