年長者が男のロン毛を嫌うのは、どこの国でも同じなのかもしれない。
アフガンニスタンでも男の髪は短い方がイイらしい。
丸坊主も珍しいことじゃない。
とくに暑いこの季節は。
髪の長いのは僕も嫌いで、髪が耳に当たるのが嫌い。
だけど、坊主頭は絶対に断固拒否だ。
なので、床屋に行かなきゃならない。
単独の外出は厳禁なので、宿舎のチョキダールに声をかける。
「床屋行くから、ついてきて」
「クマさん、ようやく行く気になったか。髪は短い方がイイぞ」
向こうも「いい加減切れよ」と思うくらいまで我慢するのは訳がある。
宿舎の近くにあった床屋は、日本のそれと違って清潔感からほど遠い環境。
中は冬でも暖かい。たぶん、蒸したタオルを作るせいだ。
おかげでいつでもハエが飛び交う。
それはまだいい。
不衛生は、そのうちに慣れるから大きな問題じゃない。
だが、日本ではもう長いこと行きつけの床屋さんを使ってるので、
なんぞ切り加減を注文しなくても切ってくれる。
だけど、そこはアフガンだった。
イスに座ったとたん、僕と店主の間でいつも沈黙が流れた。
「これ、どうやって説明したらいいんだ?」
しばしの沈黙の後、店主はおもむろにハサミを入れる。
おっちゃん、大丈夫なのか?
強烈な不安。
まさに生死の境目にいる気分だ。
しかも、極度の近眼な僕の視力を補うメガネは、散髪中なんで外している。
どう切られているのか、全くわからない。
終わってから、ようやく鏡を見る。
「まあ、ここはアフガンだし、いいか」
無理やり、そうして納得した。
納得するしか術はない。
そうして休暇で帰国した時、実家で「なんか素人が切ったみたいね」と言われ、
伸びてもないのに近所の床屋さんに行く。
カクカクジカジカと事情を話す。
顔なじみの店主が僕の頭を調べて、一言漏らす。
「うわっ、まさかここを切るか。ありえへん」