都鄙往還雑考

宝塚の山の中と街をいったりきたり 2022年12月よりブログタイトルを変更しています。それ以前の記事は順次整理していきます。

覚悟がいる散髪

年長者が男のロン毛を嫌うのは、どこの国でも同じなのかもしれない。
アフガンニスタンでも男の髪は短い方がイイらしい。
丸坊主も珍しいことじゃない。
とくに暑いこの季節は。
髪の長いのは僕も嫌いで、髪が耳に当たるのが嫌い。
だけど、坊主頭は絶対に断固拒否だ。
なので、床屋に行かなきゃならない。
単独の外出は厳禁なので、宿舎のチョキダールに声をかける。
「床屋行くから、ついてきて」
「クマさん、ようやく行く気になったか。髪は短い方がイイぞ」
向こうも「いい加減切れよ」と思うくらいまで我慢するのは訳がある。
宿舎の近くにあった床屋は、日本のそれと違って清潔感からほど遠い環境。
中は冬でも暖かい。たぶん、蒸したタオルを作るせいだ。
おかげでいつでもハエが飛び交う。
それはまだいい。
不衛生は、そのうちに慣れるから大きな問題じゃない。
だが、日本ではもう長いこと行きつけの床屋さんを使ってるので、
なんぞ切り加減を注文しなくても切ってくれる。
だけど、そこはアフガンだった。
イスに座ったとたん、僕と店主の間でいつも沈黙が流れた。
「これ、どうやって説明したらいいんだ?」
しばしの沈黙の後、店主はおもむろにハサミを入れる。
おっちゃん、大丈夫なのか?
強烈な不安。
まさに生死の境目にいる気分だ。
しかも、極度の近眼な僕の視力を補うメガネは、散髪中なんで外している。
どう切られているのか、全くわからない。
終わってから、ようやく鏡を見る。
「まあ、ここはアフガンだし、いいか」
無理やり、そうして納得した。
納得するしか術はない。
そうして休暇で帰国した時、実家で「なんか素人が切ったみたいね」と言われ、
伸びてもないのに近所の床屋さんに行く。
カクカクジカジカと事情を話す。
顔なじみの店主が僕の頭を調べて、一言漏らす。
「うわっ、まさかここを切るか。ありえへん」