都鄙往還雑考

宝塚の山の中と街をいったりきたり 2022年12月よりブログタイトルを変更しています。それ以前の記事は順次整理していきます。

大陸に着いた日 後編

イスラマバードの空港は、失礼ながら一国の首都の玄関口の割には貧相な建物だった。
日本の地方空港のような感がある。
深夜というのに、外はえらい人だかりだった。腰ほどの高さのある柵の向こうで、
空港から荷物を持って出てきた人たちに、男たちがさかんに大声でアピールする。
甲子園球場の応援席を思わせる熱狂だ。(タクシードライバーたちです)
そんな集団の中に、自分の名前を書いたプラカードを見つける。
出国直前に届いたメールには、プラカードを持った迎えが空港にいると書いてあり、
その担当職員の名前も書いてあった。ただし、自分から先に彼の名前を尋ねないようと
意味深な言葉があり、現地語での尋ね方も添えられていた。
「ヌムデ、サデイ?」すでに頭の中に刻んである。口の中で何度も繰り返す。
プラカードに近寄ると、二人の男が満面の笑顔で僕を迎える。
二人は僕を拉致する勢いで駐車場まで連行した。名前を尋ねる余裕いっさい無し。
「長い時間待たせやがって」という雰囲気の二人は、僕と荷物をダットサンに積み込むと
車を出発させる。やたらに陽気だ。
「どこから来たのか?」
「家族は何人だ?」
「結婚してるのか?」
「なぜしないんだ?」
「恋人はいるのか?」
「やかましいわ」
深夜にこのテンションなのか?長旅に疲れた僕には酷だ。
車は夜のパキスタンを疾走する。疾走する。疾走する。メーターを見る。
時速は100キロを大幅に超過している。
大丈夫なのか?(のちに、これが普通なことを知る)
途中、いくつもの検問があった。闇夜にライフルを持った警官の姿は、少し怖い。
怖かったが、いつの間にか眠ってしまう。気付くと、ペシャワールの街の中にいた。
車は深夜の街を走る。が、どんどん幹線道路から離れていく気配がある。
ライフルがいくつも目にとまる。痩せた野犬たちのワイルドな目が光る。陽気だった二人はやけに静かだ。
道路脇に小さな川が流れていた。いつの間にか人家も街灯もまばらだ。
怖い。怖すぎるぞ。この状況。
身ぐるみを剥がされて、川に沈められるのか?などと、想像するうちに目的地に到着した。
自宅を出発して、およそ24時間後のことだった。