イスラマバードの空港は、失礼ながら一国の首都の玄関口の割には貧相な建物だった。
日本の地方空港のような感がある。
深夜というのに、外はえらい人だかりだった。腰ほどの高さのある柵の向こうで、
空港から荷物を持って出てきた人たちに、男たちがさかんに大声でアピールする。
甲子園球場の応援席を思わせる熱狂だ。(タクシードライバーたちです)
そんな集団の中に、自分の名前を書いたプラカードを見つける。
出国直前に届いたメールには、プラカードを持った迎えが空港にいると書いてあり、
その担当職員の名前も書いてあった。ただし、自分から先に彼の名前を尋ねないようと
意味深な言葉があり、現地語での尋ね方も添えられていた。
「ヌムデ、サデイ?」すでに頭の中に刻んである。口の中で何度も繰り返す。
プラカードに近寄ると、二人の男が満面の笑顔で僕を迎える。
二人は僕を拉致する勢いで駐車場まで連行した。名前を尋ねる余裕いっさい無し。
「長い時間待たせやがって」という雰囲気の二人は、僕と荷物をダットサンに積み込むと
車を出発させる。やたらに陽気だ。
「どこから来たのか?」
「家族は何人だ?」
「結婚してるのか?」
「なぜしないんだ?」
「恋人はいるのか?」
「やかましいわ」
深夜にこのテンションなのか?長旅に疲れた僕には酷だ。
車は夜のパキスタンを疾走する。疾走する。疾走する。メーターを見る。
時速は100キロを大幅に超過している。
大丈夫なのか?(のちに、これが普通なことを知る)
途中、いくつもの検問があった。闇夜にライフルを持った警官の姿は、少し怖い。
怖かったが、いつの間にか眠ってしまう。気付くと、ペシャワールの街の中にいた。
車は深夜の街を走る。が、どんどん幹線道路から離れていく気配がある。
ライフルがいくつも目にとまる。痩せた野犬たちのワイルドな目が光る。陽気だった二人はやけに静かだ。
道路脇に小さな川が流れていた。いつの間にか人家も街灯もまばらだ。
怖い。怖すぎるぞ。この状況。
身ぐるみを剥がされて、川に沈められるのか?などと、想像するうちに目的地に到着した。
自宅を出発して、およそ24時間後のことだった。